「奥さん」って呼ばれたいんだ




結婚ラッシュってあるじゃないですか。

20代の半ばとか、30歳の手前とか。

いまね、私の身辺、怒涛のおめでたラッシュ。

” あのね、ちょっとご報告があるんだけど… ”


きたよ。きたきた。
もう〜、次は何を踊ればいいの!!



話は変わって、この度めでたく人妻になった友人から先日とんでもないことを聞いてしまった。

” 結婚する前と後じゃ、お淳太様の破壊力が全然違う ”

ほう。

よくよく話を聴くと、それがお昼のバラエティを指してるのは明らかなんだけど、いかんせん火曜日しか録画してないから木曜日の事情なんてサッパリ。

だから見兼ねた友人が動画を見せてくれた訳さ。
刮目したさ。

まじか。

…なんだろう。
すごくイケナイ気分。
合法エア不倫な気分。(どんな)

歯の浮く台詞。
美しいご尊顔。
ロイヤルな身のこなし。

なるほどね。
確かに。
これは、ヤバイ。

そんな肩書き持ち合わせない私でさえこのドキドキ。
これで私、その立場にでもなったら…
ドキドキなんてもんじゃない。
完全に骨抜かれる。
でろんでろんになる。
そして生活に支障が出る。
もはや違法なおクスリレベル。
欲しくて欲しくて堪らない。
毎週欠かさず接種しないと。
ハァハァ。
違う意味で動悸が止まらない。

大丈夫?
お昼にあんなの放送して大丈夫?
下手したら子供も見るよ?
旦那さんだって見るよ?
家庭崩壊しない?
放送倫理なんたら委員会に目ぇ付けられない?

てか奥さんになったらそんな美味しい目に遭うの?
なんだよそれ。

私だってイケメンに奥さんって言われたい。
ジャニーズに奥さんって言われたい。
でも今すぐ奥さんになんてなれない。
どうしたらいいの。
溢れる煩悩をどうすればいいの。

さっさと昇華させよう。






中丸雄一(KAT-TUN)
「俺の奥さん。」

…ってことは、彼とは婚姻関係ですね。
いいですか。
婚姻関係ですよ。

どうしよう。
夢にまで見た、中丸くんとの結婚。
あー、自然と口元が緩む。無理。
うへへ。

でも浮かれてないで。
あくまでも妄想だから。
現実じゃないからね。
もう一度言い聞かせて。

あくまでも妄想だから。
現実じゃないから。
冷静になって。
そう、いい感じ。
そしたら全身の力を抜いて。
静かに目を閉じてイメージして。

中丸くんのあの口から出る、「奥さん」




無理しんどい。

待って。
待って落ち着いて。
とりあえず深呼吸しよう。
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー
…って違うちがう。
ハイ息吸ってー、吐いてー。
もう一度ハイ息吸ってー、吐いてー。

落ち着けたのかないのかちょっと分かんないけど、気が動転してるからアルゴリズムで追っていこうね。

そうよ。婚姻関係にならなくちゃだから。
先ずプロポーズでしょ。
ケジメつけないと駄目でしょって。
彼きっとそういうのウルサイし。
昭和スピリットだから。
ほんと面倒くさい。
好き。


でもねあのね、聞いてくれる?プロポーズは何でもない日にお家で突然に、ってのが私の理想なんですけどね、休日にのんびり過ごしている時に、そうだな〜例えばお互いソファに身を預けている時に、

「あのさ、『結婚しよ』って言うから、『はい』って言って」

っていきなり要求するんですけど、もちろん急にそんな大事なこと言うから、え?なんて?ほんと?うそじゃないよね?てか今?え、なんで?今日なんの日だっけ?何かあったっけ?彼の誕生日はこの前お祝いしたし私の誕生日はまだ先だし、何かの記念日…記念日?何の?交際の?キス?何?え?そもそも記念日いつだっけ?…って高速で頭回転させるのか単純にフリーズするのかはこの際どうでもいいけど、ただひとつ分かるのは私は今とても無防備に、きっと間抜けな表情で彼をただ見つめているしかできないってことだけで、そんな私を見て少し口角を上げながらじゃあ、ってあの厚い唇で呟いて、静かな、でも時計の秒針と自分の鼓動がやたら大きく聞こえる空間ごと飲み込むように音を立てて息を吸いながら、伏せてた瞼を上げて私を見つめるから、私はそのやらたと熱っぽい視線から目を離せなくて、冷房で冷えた手はいつの間にか湿った体温で包まれてて、落ち着くと思ってた嗅ぎ慣れたこの彼の部屋が何故かこの時ばかりは全く知らない空気を醸し出して…確かに時は進んでいるのにそれを報せる刻音がもう聞こえなくて、まるで私たちだけ時が止まったかのように思えて、きっとこの一瞬の間に心の中で百面相してたんだけど、そんな胸の内なんか隠せてない私に言い聞かせるように優しくはっきりと「結婚してください」って言うから、過ぎ去ってた時間分を一気に飛び越えるような感覚になって、それと同時に一際大きく聞こえる刻音も触れ合う熱の力強さも大好きなこの匂いもはっきりと掴めて、映る世界はこんなにも鮮やかなことに驚いて、ひどく落ち着いてる自分と高揚してる自分が混在しているけど、目の前の彼の方が緊張と不安で強張る形相を悟らせまいと無理して作った笑顔でいるから…正直言って変な表情をしているから、そんなところも彼らしいなぁって凄くすごく愛おしさが溢れてきて、気付いたら彼を抱き締めてて、彼も安堵の溜息を漏らしそれに応えてくれるから、あぁ、私たちいま幸せのど真ん中なんだって実感が追い付いてきて涙止まらない。(ここまで一息)


なんて無駄に長い。
でも妄想だからいいの。
供養なの。

でもほら中丸くんはサプライズは絶対しないタイプだから、こういうプロポーズとかどうですかね?ね?


よし。しっかりプロポーズもして頂いたので、めでたく彼の戸籍に入ります。

でもその前に両親に挨拶だよね。
勝負スーツ着て、ガチガチに緊張してる中丸く…いや雄一さん。


最&高。


彼とは上京してから出会ったから両親に会うのはこれが初めてな癖に、自己紹介して直ぐに本題に入ろうとするから気の張りようもピークに達して噛み倒すし、トイレ近くなるからって水分控えてたから声も掠れるし、見兼ねてお母さんが勧めてくれたお茶は湯のみ持ち損ねてちょっと零すしで、プロポーズの時のあの格好良さはどこいった?って感じなんだけど、なんとかお決まりの台詞も決まり両親も快諾してくれたからホッとひと安心。翌週には私も彼のご家族にご挨拶と報告に伺って、その後の両家の顔合わせや指輪の購入、式の段取りなど一通り進めていく合い間を縫って、披露宴をする数日前に婚姻届を出しに行きたい。

記念日でも何でもない、穏やかで気持ちの良い柔らかな陽の差す大安(中丸くん絶対そういうの気にする)。こんな日はもっと気分が高揚してると昔は思ってた。でも実際は少しのソワソワと、それを俯瞰出来るほどの落ち着き。相反する感情が同居しているというその自覚で更に頭が冷静になる。だからわざと一文字ずつ意識して嚙み締めるように名前を書きたい。

二人で提出した帰り、受理あっという間でまだ実感ないね、帰ったらゲストカード作らなきゃだし、ねぇウェルカムボードの絵は順調?そうだ、お昼ご飯どうする?天気も良いし風も気持ちいいし、このまま散歩して早めのお昼食べれる所でも入る?とか適当に会話しながら区役所の階段を降りるんだけど、最後の方で踏み外して軽くコケそうになったら彼が、危なっかしいなぁ、ほら、なんて呆れながら指の長いキレイで大きな手で私の手を掴まえてまっすぐ見つめて言うの。

「今日から俺の奥さんなんだから」

しっかりしてよ。
ってぷりぷりして、奥さんだからねって、今度は優しく噛み締めるようにそう呟いて絡めた手を引く彼。
2度のその言葉の威力に、嬉しいような、恥ずかしいような、くすぐったいような。
そんな気持ちになって思わず力を強めると、フッと口角が上がってキュッと包み返してきてくれるから、私と彼の手を目一杯使っても抱えきれない幸福に、いまはただただ泣きたくなる。
ついさっき紙を一枚出す時にはなかった感情。
こうやって少しずつ実感してくのかな。
なんでもないようなことが幸せなんだと思うのかな。
これから始まる彼との人生、何があっても仲良く手を繋いで歩んで生きたい。


「俺の奥さん」なんて呼ばれてニヤニヤしてるのは絶対に見抜かれてて、事ある毎にキラーワードとして言ってきそう。始めは褒められても注意されても新鮮なその呼び方に浮かされてたけど、だんだんとその効力も薄れてってイラっと感じるのも、「私も勤めてるから家の奥にはいないんだけど、それなのに奥さん奥さんって何?」とマジレスしたくなるのも、それはそれでアリかな。(面倒なドM)

お父さん、お母さん。
今まで育ててくれてありがとう。
彼と一緒ならきっと何が起きても大丈夫。
わたし幸せになるね。






「仲が良いですね。奥さん。」

ご近所に住んでるナイスミドル。
どこかに落ちてませんか?
ゴミ捨て場に颯爽と現れるナイスミドル。
どこに落ちてますか?


雄一さんと見つけた新たな住まい。
玄関が広くて収納も充実した彼一押しの住処。
その近くで暮らしてたのが、坂本さんご夫妻。
愛妻家のご主人とは朝のゴミ出しのタイミングが一緒で、毎回挨拶と共に超絶爽やかな笑顔を振り撒いてくれるから、ほんと目の保養。花背負ってそう。

姉さん女房な奥さんとスーパーで会ったり回覧板を回しに行くうちに仲良くなって、旦那さま家事も手伝ってくれるしステキですねって言うと昔は結構やんちゃしてたとか今とは全然違ってたとか意外な情報ばっかり教えてくれるけど、いつ見ても幸せそうで、こんな理想の夫婦に私たちもなっていきたいなぁ、って坂本夫妻に憧れてたい。人生の良き先輩。

新婚生活にも慣れてきたある日、雄一さんと口ゲンカして意地の張り合いになってしまうも次の日雄一さんが珍しく出勤時にゴミ出しをしてくれてたことに気付いて、これで許してくれるって思ってるのかな〜と思いつつもちょっと柔らかい気持ちを取り戻せて今日は定時で帰社して彼の好きなを作ろうと気合いを入れて取り掛かり、そろそろ彼が帰宅するくらいの時間に湿った土の匂いが窓から入ってきて、あ、雄一さん傘持って行ってない、って傘立てを見て気付いて、まだしばらくは止まないからお迎えに行くと、最寄り駅で困った顔して携帯と空を交互に見てる彼がすぐ見つかるから、おかえりって言葉と共に傘を差し出して、ただいまって傘を受け取って、ここ最近のこと、ごめんねってお互いに謝って無事に仲直りして、ひとつの傘で一緒にお家まで帰ろう。

翌朝のゴミ出しで、昨日家に入るところを見ていた坂本さんに

「相合傘なんて、仲が良いですね。奥さん。」

って爽やかな笑顔で言われたい。
若いっていいなぁ、って冷やかされたい。
坂本さんなら多少おじさんクサイこと言われても…
いや、寧ろ言われたい。
ちょっとセクハラまがいな質問も許せちゃう。
人生経験豊富な坂本さんに、色々詮索されたい。
ついでに自分の惚気話も勝手にベラベラ喋ってくれ。
こっちが悶える程にキュンキュンさせてくれ。

いやぁ良いもの見たなぁ、新婚って感じで初々しいなぁ、いや僕なんて嫁は年上でしょ?手も繋ぐよ?大好きだしそりゃ繋ぐよ、繋ぐけどさ、傘は今はもうハードル高いよ〜、やっぱり勇気いるのよ〜、でもウチの嫁可愛いからさ〜、でも時々凄い怖いんだよね、だから僕は嫁第一なんだけどね、奥さんのところは…って、え?あの時喧嘩してたの?あ、なるほど昨日朝ここで会わなかったのはそういうことね、で?あの傘は仲直りからの〜なの?うっわ何それ眩しい、眩しいよ奥さん、あ〜僕も嫁と喧嘩して仲直りしたい。
ここまで見えた。

ご近所に住んでるナイスミドル。
どこに落ちてますか?






三宅健(V6)
「悪い子だね、奥さん。」

健ちゃんには、
良い子 よりも 悪い子 って言われたくない?
私は言われたい。

で、設定なんだけど会社の元上司とか良くない?
こらこら〜、なんて似合う〜。
今は部署が変わって直属の上司でも何でもないけど、未だに気に掛けてくれる、とか。
最高。
なんて面倒見の良いんだ。

三宅さんは今でこそ課長だけど、私が入社した当初はまだ係長で教育係。
そんなの大したことないって、が口癖って教育係としてはどうなんだ。
見た目は若いけど勤続年数はそこそこ。
いつもヘラヘラしてるし昇格試験も受けないし、出世願望ないのかな、なんて。
でもいつの間にかいきなり主席課長に抜擢されるから、え?知らない間に試験受けてたの?
前回の合格者一覧に目を通しても名前ないし…と不思議に思ってると目の前に三宅さんが。
もしかして、良からぬ手でも使った?
なんてあらぬ読みをしていたら後ろから頭コツン。
こらこら、悪い顔してるな〜何考えてるの。君が入社するうんと前に試験合格してんの。
って、完全に読まれてて。
ああ、なるほど。
一番美味しいタイミングまで待って出世か。
と、可愛い顔して計算高い彼は華やかに栄転して。

たまに社内で会った時はよくコーヒーを奢ってくれる仲だから、結婚の報告もしっかりした。
三宅課長、お先にすみません。なんて。
うるさい、お幸せに、って返してくれた。
だからあんなことになるなんて思いもしなかった。

ある日雄一さんとまた喧嘩して、今回は結構深刻で、最悪なことに仲直りする前に彼は海外出張に行ってしまい連絡も取れず…今まで喧嘩は数あれど、ここまで大きなのはなかったから社内の休憩スペースで考え込んでいたら、コーヒーの香りが近くにやってきて、顔を見ないでも分かるその相手は、悩みごと聴いてあげるから今晩定時で上がれるよう仕事頑張って、と苦い香りを残して去っていくから、どうせ帰ってもひとりだし、一緒に食事なんて送別会以来だし、と結局定時で業務をしっかり終えてタイムカードを切りエントランスを抜けると、もう待っててくれる優しい元上司は、適当に入った居酒屋で何を聴くでもなく他愛もない話ばかりで、なんだ、もっと詮索されるのかと構えてたから少し気が緩んで、でもお互いお酒が進んだところで、旦那さんと喧嘩でもした?って急に核心突いてくるから動揺して、誤魔化してもバレバレで、愚痴なら聴くよと促されるまま、大したことないってと相変わらず言ってくれる彼に甘えてしまって、少しずつ溜め込んでた雄一さんへの不満が口を衝いて止まらなくて、ひたすら話を聴いてくれる彼に完全に気を許し…気が付いたら知らない部屋で寝ていて、それは他でもない三宅課長の部屋で、何が起きたのか察したくなくて、理解も全然出来ていなく、隣で寝ている彼がつられて目を覚まして、目を擦りながら、まだ4時じゃん、ああ、昨日は楽しかったね、と笑うから、背筋に冷たい電流が走るけど何も思い出せなくて、いつもの口癖を言ってよ、と声にならない声で必死に懇願するも虚しく、いたずらっ子の様に笑って言うの。

「新婚なのに男の家に泊まるなんて悪い子だね。
   ね、奥さん。」







櫻井翔(嵐)
「奥さんなんだから。」

おは…どうした、顔色悪いし、昨日は定時で帰ってたけど、風邪か?
なんて心配してくれる上司。
櫻井課長。
もとい、櫻井先輩。
雄一さんが学生時代に他大学との交流戦で意気投合して以来いまでも親しくしている先輩で、私もつられて先輩なんて呼んでいた。
私の上司になった頃には先輩呼びが染み付いて、職場で課長と呼ぶのは気恥ずかしかったのも、懐かしい。

風邪じゃないんです、だから大丈夫です、となるべく元気を装って笑う。
すると課長は、そうか、とだけ言ってデスクに戻る。

ほぅ、と安堵かよく分からない溜息を漏らした。
彼の大切な先輩に言うべきではない。
でも今朝のことを考えると足元から何かが崩れていくようで、真っ直ぐ立てている感覚が無い。
だって信じられるものが今は何もない。
三宅さんも、自分も。

化粧落としてパックまでしてあげたんだから感謝しなさいよ、なんて言われたのは、ほんの数時間前。
女の子はどんなに眠くても時間がなくてもメイクオフと保湿だけは欠かせたらダメだよ、毎日湯船にも浸かって欲しいけどさ、と女性顔負けの美容のいろはを教授された。
でも待って、それ今この状況でする話?
だって私は違和感しか感じてない。
良い年した男女が同じベッドに寝ている。
一見不自然なところはなにも無い。
が、女には配偶者がいる。
しかも、新婚。

バクバク、と速く鳴る鼓動の音が聞こえる。
血が逆流している様な感覚がする。
息が吸えない。
明らかに何かあったであろう状況の把握をするのに精一杯な私に、一仕事終えスッキリした表情の彼は、
人のモノに手を出す趣味は無いから、安心して。
そう言い放ち、帰るならオートだから鍵とか気にしないでどうぞ、とだけ伝えてまた眠ってしまった。
ようやく、自分の体に視線を落とす。
服、着てる。

三宅さんの言葉をまるっと信じてしまっていいのか。
何かがあったなかったとかじゃなく、そもそも元上司とは云え新婚の身分で男性と2人で意識を失うまでお酒を飲んでしまったことが問題であって。
雄一さんと仲直り出来てないのに、こんな誤解される状況を作ってしまった自分は最低だ…

バタバタと慌ただしくあの部屋を後にし、本来居るべき自宅に戻って出社する間ずっと思考が停止したままだったから、今はそんなことばかりが頭を占める。
今は仕事中なんだから、考えない。
考えないの。
ああもう、ミーティング室に呼ばれた。
櫻井課長だ。

どうした、今日はずっと心此処に非ずじゃないか。
怒るでもなく、優しく問いかける彼から差し出されたコーヒーは、いつもと違いキャラメル入りで甘いはずなのに、香りは驚くほど苦い。

無駄な時間を嫌う課長は、無理に訊き出すこともせず、それ飲んだら倉庫行ってこれ整理してこいとチェックリストを渡してさっさと出て行ってしまった。
倉庫なら誰も居ない。
それにこんなに沢山のリスト、数時間はかかる。
スマートで優しい、けれど私情を業務に持ち込まないよう促す気遣いができる課長は、いつも正しい。

倉庫に缶詰めになって片付けをこなす毎に頭の中も整理出来て、気分もやっと落ち着いてきて、ひとつの決心をした所に櫻井課長がやってきて、私の顔を覗き込み、大丈夫そう?と確認してから、で、何があった?と静かに問いかける彼はやっぱり頭がキレるだけあって、何も言ってないのに全て見透かされているようで、今さっき全部誰にも秘密にするって決めたのに、そんな決意は呆気なく砕かれて、彼と大喧嘩したこと、仲直り出来ないまま海外出張に行ってしまったこと、三宅さんとの昨夜のこと…全て零してしまった。

成る程ね、三宅さんもそう言ってる通り、ただ泥酔した元部下を泊めただけだと思うし、かといって周りに変に吹聴することもしない人だから、もう何もなかったって思って良いんじゃない?アイツには秘密にするのが最善の策かな、知ったら絶対落ち込むし、帰国する明日までに切り替え出来るよね?と呟く先輩。
怒るでもなく、呆れるでもなく。
ただ、静かに諭すように、

「もう雄一の奥さんなんだから。」

そう優しく叱ってくれる先輩は、いつも正しい。







薮宏太(Hey!Say!JUMP)
「ちゃんとやれてるの?奥さん。」
「奥さん?いつの間に?」

先輩が倉庫から先に出て行く時に言ってた言葉。
俺も誰にも言わないから、あいつが帰ってきたらちゃんと仲直り出来るよう振る舞えよ。

分かってはいるけど、彼に一生秘密を抱えて行く覚悟なんてまだ出来ずに残りを片付ける。
夕方デスクに戻ると、スマホに何件か通知が。
雄一さんから?と思い、思わずアプリを押すと、差し出し人は大学時代の同期、薮ちゃん。
玉森くんが出張でこっちに戻ってきてるから、ゼミ仲間を急遽今夜招集とのこと。

久しぶりで会いたい気持ちはあれど、今お酒が絡む席や楽しい場に足を運ぶのはだめだ。
あとで断りを入れよう、とそのまま閉じた。

滞っていた事務処理を淡々とこなし、一息ついてふと時計を見ると19時をとっくに過ぎていた。
やばい、消灯まであと少し。
急いでパソコンを閉じ、帰り道に値引きされたお惣菜とスパークリングワインとフルーツを購入して灯りの点いていない住まいに帰った。

20時を半分過ぎたころ、着信が。
薮ちゃん。

開口一番なんでこないんだよ〜、連絡くらい入れろよ〜と管を巻いている。
相当酔っている。
ごめん、忘れてたと謝りを入れたがまだグチグチ言っている。
男も女も所帯を持つと付き合い悪いよな、なぁ、なんて恐らく近くにいる人に問いかけている。
すみません、薮くん相当酔ってるみたいで、と他人行儀なセリフを言う懐かしい声に変わった。
玉森くん。

お久しぶりです、と挨拶すると、ん?と変な声。
何だよお前かよ、誰に掛けてるか全然分からなかったから敬語で構えちゃったよ、と急に早口になった。
いや、でもゼミ時代私たちそんな接点なかったから、むしろずっと敬語で会話してたけど、と笑うと、そうだったっけってトボけて彼も笑った。

通話口の奥から、あ〜何俺の電話でいちゃいちゃしてるの!と酔っぱらいの声が聞こえて、恐らく奪い取ったのだろう、あっ、と先程まで近くで聞こえていた声が少し遠くで聞こえ、再度また始めに電話を寄越した張本人の声が近くにきて、ねぇねぇ、と注意を引こうとする彼の顔は、きっとただでさえ笑うと細くなる目を更に伸ばしてニヤニヤしてるんだろうってことが容易に想像できるほどの声色で、そんなイメージをこちらがしているのも彼は知る由もなく、口を開く。

「ちゃんとやれてるの?奥さん。」

「え?奥さん?誰が?いつの間に?」

私に答える隙も与えず、それどころか完全に会話に置き去りにされたまま、ふたりの掛け合いを聞く。
知らなかったの?知らないって、いつ?まだ1年経ってないくらいだけど皆でお祝いしたじゃん、俺それ知らないんだけど、そりゃ都内にいないお前が悪い、仕事だから仕方ないじゃん、で?ちゃんと主婦出来てるの?と急に振られたから、うんまぁ、と当たり障りのない返事しか咄嗟に出来ず、うわ惚気られたー!と絶叫する薮ちゃんを他所に玉森くんは、大好き大好き言ってたあの人と結婚できたんでしょ?何があってもずっと手を繋いでいられるおじいちゃんおばあちゃんになりたいって言ってたもんね、幸せなんだね、良かったじゃん、とここ最近のゴタゴタを何も知らない筈なのに傷ついた心に言い聞かせるように優しく言うから、夕方には出来ずにいたある覚悟が何故か今決めることが出来て、うん私は幸せだしこれからもっと彼を幸せにするの、と宣言していた。

ははは、玉森くんと笑う。
改めておめでとう、末永くお幸せに、またねと彼が電話を切る。
そうだ、何があっても乗り越えて幸せになろうって雄一さんと誓い合ったじゃないか。
明日、彼がこの家に帰ってくる。
喧嘩したまま、行ってらっしゃいも笑顔で出来ずに送りだしてしまったんだ。
優しい彼はどんな気持ちで出て行ったんだろう。
何もなかったとはいえ秘密を抱えてしまったんだ。
大したことないと言う人もいるかもしれない。
そんな秘密は早く話した方が良いかもしれない。
でも楽になるのは自分だけで、優しい彼は傷つく。
ちゃんと奥さんをやるんだ。
今度薮ちゃんに聞かれたらハッキリ肯定するんだ。

今日は金曜日、明日はお休み。
今から部屋を隅々まで掃除しよう。
玄関は特にキレイにしよう。
少し寝て起きたら、空港まで彼を迎えに行こう。

おかえりなさいと笑顔で言うんだ。
きちんと仲直りするんだ。
弾けるワインと甘いフルーツを仲良く味わおう。
ずっとふたりで手を繋いで歩いていけるように。


私は、雄一さんの奥さんなんだから。





いやもう妄想が過ぎる。
ひどい。
けど悔いはない。
でもひどい、ほんとジャニーズに失礼。
なに途中ドロドロ小説紛いなことやってるの。
着地点が見えない。
たすけて。

そもそも恋人は中丸くんじゃないし、
花背負ってるご近所さんもいないし、
職場にあんなイケメン上司何人もいないし、
大学の同期にすらあんなイケメン居なかったし。
テレビの前でキャーキャーするのが私にはお似合い。

「奥さん、あなたの中間淳太ですよ。」

早くその破壊力味わいたい。
はやく奥さんになりたい。
来年には結婚しよう。